月曜日:こっちが折れて仲直り
日本の桜の開花宣言というのがあるけど、僕にとってこの薬学部の前にあるサルスベリが咲くと夏本番という勝手な季節感がある。ジョージアについに本当の夏が来ました。
学校を卒業して夏の間だけ研究室でフルタイムで働いているイジーの仕事ぶりがあんまり良くない。何を言ってもわからないような返事をするし、いまいちやる気がなさそうな態度。確かに時給は安いし将来この道でやっていこうという気はないのは知ってるけどもうちょっとしっかりやって欲しいと思ってた。
先週の木曜日についに言っちゃた。「何言っても反応がわかってないとしか思えないようだぞ。どうしたんだイジーもう1年やってきたのに卒業したらみんな忘れちゃったのか? 」それ以来ふてくされた顔で僕と話す時もこっちを見ないで話す。でも僕がいないところでは他の大学院生と楽しそうに話してる。
今日もちょっと遅れてきてふてくされ顏。
どうしたもんかと思って昼飯食いに行きながらちょっと考えた。その時、宮本武蔵の五輪書に書いてある大工の棟梁の話のことを思い出した。武蔵は大工の棟梁の話にいかに材木の質を吟味してそれを上手にその材木個々の質にあったところを十分生かして使い分けて家を建てるということを、人を使うのはこうでなければならないと言っていた。
だとするとこっちはイジーができることが最大限に発揮できるようにこっちが働いてやることによって彼女の仕事も上手に進みチームとしてプロジェクトが先に進むんだということに改めて気がついた。
それで飯食って帰ってからイジーを呼びつけて、「ちょっと強く言い過ぎたから悪かったごめんなさい」と言って謝った。「これから俺ができるだけ助けてやるからお前はできることをどんどんやってくれ。」と言ったら、「嫌だったのは仕事がうまくいってないから間違いちゃいけないと思って簡単なこともこれでいいか何回も聞いて確認してたのに馬鹿にされたのが嫌だった。」という。まあそれもそうかもしれんと思って、「悪かった。」と言った。それでこれからの計画をちょっと話して午後自分は試薬作りに回った。
この溶液は買えば50ドル。多分ボスは買ってくれないとみんなが言うから自分で作った。ところがどっこいなかなかpHが合わない。
やっとできてフィルターで除菌したらなんだか茶色いものが沈殿してる。
化学の博士のマサノに聞いたらマンガンが入ってるか?っていうからマンガン入ってるって言ったら、マンガンが酸化して沈殿してるんだという診断。僕もなんかが酸化してるんだとは思ったけど、化学博士に言われれば流石に説得力がある。
明日もう一回作りなおす。
イジーは帰り頃は元気が戻って、何も言わないのに自分でどこがおかしくっていい結果が出ないかノートを整理したりしていきなり責任感が出てた。向こうも向こうで週末いろいろ考えたり友達や親と話したりしたんだろうと勝手に思った。
大人になるって大変よ。
イジーもそうだけど今回のことはこっちも一回り成長したかも。